映画「残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋」:誤解される地縛霊

 心霊系ホラー映画です。私はホラー映画は滅多に見ないのですが、心霊現象に対する世間一般の認識に興味があり、このたびは観てみました。 (2016年3月12日鑑賞)


小野不由美 原作 中村義洋 監督

配役 「私」:  竹内結子、「久保さん」: 橋本愛、他

あらすじ
 住居のいわゆる事故物件の話から始まります。
 「私」は怪談系のミステリー作家。読者の女子大生「久保さん」から手紙をもらいます。彼女が住み始めた首都圏のマンションの人気の無い部屋から床を擦るような怪音がします。
 それは縊死した自縛霊が原因と思われましたが、調べたところ、そのマンションに自殺の案件はありませんでした。また、久保さんの部屋以外にも別の霊障を思わせる怪現象が起きる部屋があることが分かりました。
 それから、二人はマンション建設以前の土地と住人について調査を始めます。するといろいろな霊的現象は時代を遡ると一つのルーツに収束していったのでした。
 映画には、頻繁に建替えをする日本の住宅事情やらベッドタウンの開発、住人の流動性などの社会的背景が盛り込まれます。
 最初は傍観者であった主人公の「私」が死者の穢れに触れ、霊障の世界に当事者となって巻き込まれていきます。
この映画の演出
 ホラー映画の怖さは対象が正体不明であることが重要ですが、その点は謎解きが進むにつれて解消していきます。
 ホラー映画では想像力によって怖さが増す傾向があります。その一方で、たとえ死霊であっても作り物の映像で具体化されるとそれほど怖くないのです。でも映像化しなければ映画になりません。そのようなジレンマがホラー映画にはつきものです。
 霊障の世界をドキュメンタリーにすると、当事者が感じている怖さが他人には伝わりにくいです。また、現実をそのまま映すとグロすぎます。やはり、映画的に綺麗に演出する必要が生じます。さらに、美男美女が役を演じるから、このジャンルの映画を見る気になるのでしょう。

考察

【空間を物で埋めれば霊は出ないのか】

 ゴミ屋敷の主人は、幽霊が出ないように屋敷内の空間をゴミで塞いでいたようです。この発想は面白かった。

 ですが、実際にはこの試みは無駄でしょう。霊は物質の制約を受けないので、空間を物質で塞いでもダメなような気がします。それに、やりすぎると人のための居住空間がなくなってしまいます。

 

【魔で魔は祓えるか】

 後に廃屋となる霊障の家に住んでいた主人が河童の手のミイラとか妖刀とかを集めていたのは、魔で魔を祓おうと意図したようです。

 魔で魔を祓う。そのようなことが可能なのでしょうか?

 魔術的な品物を集めてみても、魔を実際に使いこなせなければ、相手の魔との相乗作用で人間側がやられるだろうと思います。

 

【護符は有効なのか】

 霊障の家の主人は部屋の壁にお札(霊符、護符)を貼りまくっていました。

 いろいろな種類の符がありますから、霊障に対して適切なものを選ぶ必要があります。

 映画では一瞬のシーンだったので、種類は良くわからなかったのですが、見るからにおどろおどろしい符が多かったようです。仮に使われたのが護身の符ではなく呪詛の符であったとしたら目的違いになります。

 符の効果は誰が書いたか、作法に則って書かれたかによっても違いがあります。

 私は、重度の霊障に対しては護符の効果は対症的・補助的のものだと思います。

 

【霊的にはどうなのよ?】

 霊的には、この映画は違うだろうと思うこともあります。

 自殺者の自縛霊は転居すればそれ以上追いかけて来ないと思います。

 

 炭鉱の事故死者の霊が一連の霊障の根本であったという筋書きです。(美人画の掛け軸かもしれないが) でも、死と隣り合わせの職業の人は死の覚悟が出来ているので、いざ自分が亡くなっても、それほど周囲を恨むとは思えないのです。事故死者の霊が殺されたということで祟ったとしても、その対象は炭鉱の経営者一族で止まり、映画で示されたほど無差別的に広がらないと思うのですが。

 

【穢れについて】

 やはり死は穢れなのでしょうか。

 死穢とは古来日本人が持っていた価値観であり、実例を古事記にみることができます。伊弉諾尊が亡くなった伊邪那美命を追って黄泉の国に行きます。そこで、伊弉諾尊は見ないと約束したにもかかわらず伊邪那美命の屍を見てしまい妻神の猛烈な怒りを買いました。伊弉諾尊は伊邪那美命と黄泉醜女に追われてほうほうの体で地上に逃げ帰ります。そして黄泉平坂に大岩を据えて伊邪那美命と決別しました。それから、死穢を祓うために禊をしたのです。その時、天照大御神、月讀命、建速須佐之男命の三貴神が生まれました。

 

 本映画は、観客にも穢れが伝染したかと暗示させる終わり方をします。

 それゆえ、人によっては後から怖さが増すようです。

 この手の心霊系ホラー映画は要注意です。製作する側も観た客も運気が落ちる可能性があります。「リング」「らせん」などのホラー映画がヒットしたにもかかわらず、その製作会社が倒産したという事例がありました。

 

 ホラー映画を見る人は、穢れを浄化する術が必要だと思います。

 穢れてしまったら、どうしたらよいのでしょうか。

 やはり古事記にヒントがあります。

     禊をすれば良いのです。

 身体と髪を水で洗い、歯も磨きましょう。

 元々は禊は海水で行ったようですね。ならば、お風呂に塩を入れて入浴するのも良いでしょう。

 そして、ネガティブな想いを水に流して忘れることです。

 うまくやれば、その時、三貴神が生まれるかもしれません。