ジャズピアニスト ドン・フリードマンの昔・今

 ドン・フリードマン(Don Friedman)は1935年サンフランシスコ生まれのユダヤ系白人のジャズピアニスト。西海岸でプレイした後、ニューヨークに移りました。

 そして1962年に録音されたアルバムが、Circle Waltzです。ジャズピアノトリオで選ぶなら、この一枚と思います。共演者はChuck Isuraelst(bass)、Pete La Roca(drums)です。

 このアルバムのおすすめは一曲目のCircle Waltzです。サティのジムノペディに似た響きを持ち、ワルツのリズムであり、しかもモダンジャズという不思議な曲です。BGMとして流しても、じっくりと聴き込んでも飽きることがありません。時の円環が回るように、気が付いたら再び最初のテーマに戻っています。このアルバムを通じて、繊細で夢幻的な旋律が、硬質で透明なタッチで奏でられてます。しかもどの曲もいい! ピアノとチャック・イスラエルのベースとの絶妙な掛け合いも良い感じです。 

 ドン・フリードマンはビル・エバンスと同世代で、その音楽性からビル・エバンス派と目されることもあるようです。実際は自分と組んでいたスコット・ラファロをビル・エバンスに引き抜かれ、ラファロが急逝した後は自分と組んでいたチャック・イスラエルをまた引き抜かれて、という具合でビル・エバンスの割をくったものと思われます。アルバムMetamorphosis(1966)からHope for Tomorrow(1975)の間にアルバムが出ない時期が続きますが、その間ドン・フリードマンはタクシーの運転手や弁護士をして生計を立てていたといいます。Circle Waltzに収められているソロ演奏のSo in Loveを聴くと、本当に上手い。これほどの人がなぜタクシードライバーに?と思います。

 

 私は、アルバムとしては彼が若い時に出したCircle Waltzが好きです。この時ドン・フリードマンは27才。ジャケットの写真では口髭を生やし、謹厳でやや神経質そうな表情で写っています。絵に例えると、ピカソの青の時代の感じです。ピカソが道化師や芸人を写実的に美しく描いた青の時代。サークル・ワルツは、ドン・フリードマンの「青の時代」の記録なのでしょう。

 

 では、私にとってドン・フリードマンはサークル・ワルツの一発屋なのか?

そうではないことがYou Tubeを開くとわかります。髪は無くなりましたが、髭は昔のまま。時折笑顔が見えて、いい年の取り方をした感じです。若いときの神経質さはなく、おおらかで円熟しています。そして、この人の品が良く歌心あふれる演奏は、確かな技術に裏付けられていて安心して聞けます。絵に例えると、ルノワールの晩年の裸婦の絵みたいな感じでしょうか。ルノワールの最晩年の裸婦画はもう細かい写実から離れ、その豊満な姿を通して生命の賛歌を純粋に表現しているように感じます。ちょっとほめ過ぎでしょうか。たとえ話をすると本質から外れることがあります。特に音楽はそういう感じがします。

 It could happen to youは歌心あふれるプレイで、長さを感じることなく、気がつくと曲が終わっています。そして何回も繰り返して聴きたくなるのです。 この曲をいろいろなミュージシャンの演奏で聞き比べてみましたが、この歌のテーマをこれほどまでに可憐に美しく弾いた演奏を他には知りません。 同じ曲の歌はこちらをご覧ください。