漫画「神々の山峯」:谷口ジローの金字塔

 映画版「エヴェレスト 神々の山峯」を見てから、漫画版を読んでみました。

この作品は、夢枕獏氏原作の小説を谷口ジロー氏(1947-2017)が漫画化したものです。この作品の谷口氏の画面構成と描写力は素晴らしいです。映画化が実現したのも、この漫画があってのことだと思います。

 

 

 ところが、漫画版と映画版では結構内容に違いがあるのですね。それゆえ、両者はパラレルワールドみたいに思えます。あらすじは映画版を参照していただくことにして、ここでは両者の違いを書きましょう。

 

 ・マロリーの扱い

英国の登山家マロリーのエピソードが漫画版では詳しいです。漫画の冒頭でヒマラヤ遠征に行き、登頂アタックのパートナーに選ばれなかったオデルのエピソードが出てきました。映画ではマロリーのフィルムは結局日の目をみませんでしたが、漫画ではマロリーのエブェレスト登頂フィルムが発見されて深町によって現像されていました。このシーンが感動的で余韻を残すのですが・・・。

 

・マロリーのカメラの扱い

深町が買ったカメラは漫画では盗難にあうのですが、映画では盗品のクレームを受けて持ち主に返していました。

 

・冒頭の深町が滑落事故を撮影するシーン

 漫画では望遠レンズでかなり離れたところから滑落者を撮っていて、別にそのことを非難されていません。

 

・岸文太郎のザイルが切れた原因

 岸が岩場で転落して宙吊りになった場面では、漫画ではザイルは岩で擦り切れたのだが、映画では岸が自分で切ったことになっていた。この設定の違いは大きいと思います。

 

・岸涼子の設定

 岸涼子は漫画版ではネパールで誘拐にあうのですが、映画では省略されています。また、漫画版では、羽生が行方不明の間に涼子はお付き合いしていた人がいたという設定になっています。

 

・漫画版で出てきて、映画に出てこない登場人物

 誘拐された涼子を救出するのに、元グルカ兵のナラダール・ラゼンドラという人物が出てくるが、映画では省略されています。また深町は瀬川加代子という女性と付き合っていたのだが、これも映画では省略。

 

・長谷常雄の生死

 漫画では長谷は雪崩に巻き込まれて亡くなったが、映画では車椅子で登場。

 

・登山の安全を願うプジャの儀式

 エヴェレストにアタックする前にアンツェリンが登山の安全を祈るシェルパ族の儀式を行うシーンがあるが、漫画では羽生と深町も参加。映画ではアンツェリンのみ祈る形で、それもささっと終了。

 

・山の怪異

 漫画では羽生がグランドジョラスで転落してから、救助を待っているときに岸の亡霊の幻覚を見たが、映画では省略。深町と羽生が岸壁の途中でビバークしているときにも、深町は亡霊の幻覚を見たのだが、それも映画では省略。

 

 まだまだ、細かい違いはいろいろとあるのですが、もう疲れてきました。漫画では登山の知識がいろいろと紹介されていたりします。

 

 

  それにしても、映画ってこんなにも、原作を変えてしまっていいものでしょうか。私が監督ならば、もっと原作を尊重したでしょう。それで、映画の興行成績が良ければまだしもですが、今回は逆効果だったかもしれません。

 この漫画で絵力あふれるシーンです。羽生がテントの中で深町に語ります。

「・・・・・・山屋は山に登るから山屋なんだ」

「死ぬために登るんじゃない」

「死んだら・・・・・・・・・ゴミだ」

 

 エヴェレストの山頂近くでは、御遺体がフリーズドライ状態で放置されています。「死して屍拾う者なし」という現実が存在するのがエヴェレストであり、そこは平地の人間の力が及ばない異界なのです。