近藤ようこ「五色の舟」(漫画)を読んで

 近藤ようこ氏の漫画です。KADOKAWA発行。小説の原作者は津原泰水氏です。

 

 タイトルから、阿弥陀如来の手につながる五色の紐で引かれた舟が彼岸に渡るイメージを持ちました。この作品は、不自由な体で見世物で生活してきた人が「くだん」の力で別世界に移行し、肉体のハンデを克服して自分の望む人生を送るという内容です。パラレルワールド物ともいえ、SF的要素が強い作品ですが、戦前の昭和が舞台であり、近藤氏のペンによって儚く幻想的な味わいになりました。登場人物は体は不自由でも心は健やかです。彼等は自分たちの境遇を恨むでもなく、懸命に生きていました。原爆が落ちなかったもう一つの世界への移行を描いた、せつない想像の物語です。

 

【作品内容】

見世物で生きる

 舞台は太平洋戦争中の日本。体に障害を持ち、家族のようにして暮らす五人は中国地方を見世物の巡業に回っていました。

 外科医の犬飼先生は、一座の中心の「お父さん」の足が脱疽になった時に膝から下の切断手術をした人です。お父さんは旅芝居の花形役者でしたが、足を失って役者の道を断念しました。

 お父さんは身投げの場所を探して川岸を歩いていた時に転んで顔に傷をつけてしまい、絶望します。その時、お父さんは捨てられていた乳児を見つけ、蘇生させました。それからお父さんは乳児を育てましたが、身長が伸びませんでした。この人が昭助兄さんです。

 主人公は腕がなく、肩から手が出ていて、話すことができません。主人公は川岸に捨てられていたのをお父さんに拾われて和郎(かずお)と名付けられました。

 ある時、お父さんは一人が亡くなった結合双生児の娘を買い、犬飼先生に分離手術してもらい、助かった娘に桜という名前を付けて家族にしました。桜は背が横に曲がり、話せませんでした。

 後に膝関節が逆になっている清子さんも一座に合流しました。

 家族は見世物の巡業をして生活をしました。昭助は怪力一寸法師として、桜は肌に鱗の入れ墨をして蛇女としてカエルを飲んだり吐き出したりという芸をして、清子は鼻に穴をあけて鼻輪を通し、頭に角をつけて牛女として見世物をしました。和郎は足で食事をしたり、あやとりをしたり、字を書いたりという芸をしました。和郎と桜は言葉が話せませんでしたが、お互いにテレパシーで会話が出来ました。

 一座は舟に乗って旅をし、広島に着きました。

 和郎は家族の一人ひとりが別々の舟に乗って別れていく夢を見るようになりました。その夢には続きがあって、最後には「家族」が同じ舟にそろっているのでした。 

件 (p150)
件 (p150)

くだん

 あるとき件(くだん)が見つかりました。くだんとは体は牛で顔は人の存在で、人語を話し予言をするといいます。お父さんは「件」を一座に加えたいと思いました。件は軍の倉庫で飼われていました。犬飼先生は軍に顔が利く人でした。一家は荷物に隠れて犬飼先生の手引きにより、「件」と会うことが出来ました。

桜と和郎 (p160)
桜と和郎 (p160)

  「件」は日本が戦争に負けることを予言します。そして周りの人々と自分自身の死についても予言しました。和郎と桜は新型爆弾で死ぬことが予言されました。

 ただし、「件」は死ぬ運命の人を別世界に連れていくことができると言いました。桜はほかのみんなも幸せになる別世界に行くことを頼みました。日本の敗戦を予言した「件」は狂信的な国粋主義者の兵隊に拳銃で撃たれて死んでしまいました。

別世界の戦後

 「家族」全員が戦後の別世界に移行しました。日本には原爆が落とされず、軍部の多くが細菌兵器の感染で死んだことにより日本は降伏していました。別世界では、日本を統治した米軍の元帥は戦争中に搭乗機を撃墜されたときの怪我がもとで右手と左足を失っていました。元帥の意向で日本には手厚い占領政策がとられ、装具開発や再生医療が進歩しました。その恩恵を受けて、お父さんは両足をつけて顔の傷が消えて役者に復帰。清子さんは膝を作ってもらい、花形女優になりました。昭助兄さんは怪力を生かして人気プロレスラーになりました。和郎は義手を作ってもらい、桜は背中をまっすぐに直してもらいました。和郎と桜は同居して聾学校に通っています。幸せな世界の恩恵を受けながらも、和郎は悲惨なあちらの世界に気持ちを残しているのでした。

 

【パラレルワールド】

 パラレルワールドはSF小説や漫画・アニメ・映画の題材として使われるテーマです。パラレルワールドとは、この世界と時間軸を平行にして存在する別世界のことです。様々な出来事が起きる際に別の選択がなされることで、分岐の数に応じて沢山のパラレルワールドが存在するという考え方もあります。

 

 パラレルワールドが存在する可能性は言われていますが、その存在は証明されていません。

 大宇宙は時間と空間の広がりであり、様々な物質を内包しています。

 私は、大宇宙は唯一無二であり、パラレルワールドは存在しないと考えます。パラレルワールドは想念上ではありえても、実在しないと思います。

 パラレルワールドの考え方の根底には現実逃避があるのではないかと思います。我々はこの世の中から逃げることはできず、この世界で覚悟を決めて現実を生き抜くしかないと思います。

 

 パラレルワールドを想像して可能性の世界を楽しむ分には目くじらを立てる必要はないのですが。