「ジャンボ機長の状況判断術」:機長に学ぶ生き残り術

坂井優基著 PHP 新書

 

 映画「ハドソン川の奇跡」を観て、ジェット旅客機の機長の勇気と冷静さに驚嘆しました。旅客機の操縦は責任が重くて失敗が許されない仕事です。機長がどのようにして仕事に取り組んでいるのか、その知恵を学んで真似をしたいと思いました。それで、以前買ったこの本を読み返してみました。

 著者は大手航空会社の国際線機長であり、この本は2009年に出版されました。中には2009年のUSエアウェイズの1549便の不時着水事故の事例についても言及がありました。

 パイロットは失敗をしないで生き残ることが重要です。そうして乗客と乗員の命を守ることができるのです。そのためには、正しい状況判断、正しい決断、正しい行動のすべてが必要です。この本では失敗しないためにパイロットが編み出した方法がビジネスでありそうな事例を交えて紹介されています。 この本はとても役立つ本です。仕事のハウツー本は世にあふれていますが、背景の重みが違います。興味を持たれた方は是非購入して読まれることをお勧めします。

 

【勝つことより負けないこと】

 面白いことに坂井機長は、最初に古の戦いの知恵を引用しています。孫子は「不可勝者、守也。」、すなわち「自分が勝てないときには守りに徹しろ」と教えました。また、柳生宗矩は「敵をきるにはあらず。・・・敵にきられぬようにすべし。」と述べました。どちらの著者も、勝ちにいくのではなく、守って負けないことの重要性を説いたのです。負けなければ生き残ることができます。この態度がパイロットの世界でも大切だということです。かくして、間違いをなくして失敗を防ぐための「柔らかなシステム」が編み出されました。

 

【状況判断】

 色々な方法が述べられていますが、自分が参考になったのは、「見えない部分は悪いことを想定する」ことです。世の中の問題のほとんどは「部分情報問題」であり、一部分の情報がわかるのみで全ての情報を知りえない性質だといいます。部分情報問題では絶対に正解は出ません。コンピューターに部分的に情報を入力すると結果がエラーになるようなものですね。

 この部分情報問題では、大間違いをしないことが大切になります。そのための方法は、「自分が知りえない情報は全て自分にとって一番都合が悪い」と想定して対処することです。知りえない情報に関しては最悪の状況を想定しておけば、実際がどんなに悪くても想定と同じです。

 ついつい自分が知らないことについての状況判断は甘くなる傾向があるのですが、これを戒める教えです。一例をあげれば、将来のイベントのときに天気が悪くないと思うのではなく、荒天を想定して準備すると困らないでしょう。

 

【決断】

 時間とともに状況は刻々と変化していて、私達はそれに対応しなければなりません。時間が経過するとともに打てる手が少なくなり、詰将棋の玉のように追いつめられていく状況は避けなければなりません。

 「取れる手段がなるべく多くなるような決断をする」のがパイロットの決断の原則です。不測の事態に対処するためにパイロットは何段階もの方法を用意しています。何かが起きたときのために代替案を最低三つ考えて準備するそうです。危機への対応は、「怪しいと思ったら空振りでもいいから対策を発動し、見逃しはしない」のが原則だそうです。

 パイロットは飛行を中止する場合の判断基準点を明確に決め、一度決めたらぶれないようにします。事業を撤退や中止する判断基準点を設定して実行することはビジネスでも重要です。

  「うまくいっても反省する」のはすごいと思います。結果オーライに流されないのですね。

 本を読むとき、主人公が決断を迫られる場面で自分ならどうするかを考えてから続きを読むことで決断力を養うそうです。そうすることで他人の経験をより我がものとすることができるのでしょう。

 

【行動】

 やるべきことを必ずやるための方法が多く書かれています。それらのどれもが大切なのですが、もっともだと思ったことを二つ紹介します。

 人間は後から来た要件の割り込みに弱いので、それに対処する必要があります。すなわち、後から入って来た要件に記憶が上書きされてしまい、前の要件を忘れてしまいがちです。私の経験でも何かをやっているときに電話が来て作業が中断されるのは嫌なものです。最初の要件をすぐに実行しておくこと、それができない場合は最初の要件の手がかりを作っておくことが役立ちます。

 「心のなかで合理化しない」というもの重要でしょう。人間は物事を自分の都合がいいように解釈する傾向があります。目に見える事実を都合がいいように合理化せず、ありのままにとらえることが失敗を防ぐために大切です。状況で何か気になることがあれば、とことんまで確認すべきです。