ダンテ「神曲」を読む①

 「神曲」はダンテ・アリギエーリ(1265-1321)が書いた100の歌から成る幻想的な叙事詩です。主人公のダンテは最愛の人ベアトリーチェを亡くして悲嘆のあまり正気を失ってしまいます。そして、死者の世界に迷い込んでしまったダンテは古代ローマ時代の詩人・ウェルギリウスの案内で地獄と煉獄を回り、ベアトリーチェに導かれて天国を訪れます。

 

【神曲の成立】

 ダンテのベアトリーチェへの熱烈な想いは詩文「新生」に描かれています。フィレンツェで生まれ育ったダンテは9才の時、同い年ベアトリーチェを見て、天使を見たかのような衝撃を受けました。そして、18才の時にベアトリーチェと再会し会釈してもらうと有頂天になりました。その後ベアトリーチェは銀行家と結婚した後、24才の若さで世を去りました。ダンテはベアトリーチェと一言も話したことがありませんでした。世俗的には、ダンテのベアトリーチェに対する恋は一方的な片思いだったと思われます。ベアトリーチェの死を知り、ダンテは悲嘆にくれました。ダンテは30才で許嫁と結婚し、4人の子供をもうけました。その後、ダンテはフィレンツェの政治に携わりましたが、政争が起き、フィレンツェを追放されました。それから、ダンテはイタリア中を放浪しながら、一生をかけて地獄篇、煉獄篇、天国篇の順序で「神曲」を書きあげたのでした。

 

 さて、グーグルで「ベアトリーチェ」を画像検索すると、何やら沢山の少女のイラストが出てきます。生身の人間でなく二次元の美少女に情熱を注ぐ現代の日本男子は、ダンテと共通するメンタリティーを持っているのかもしれません。ただし、ダンテの場合は一生涯ベアトリーチェを愛し、その愛を神への愛にまで高めた点で他者の追随を許さぬものがあります。

 

【神曲の読み方】

 原文が中世のトスカーナ地方のイタリア語であるだけに、ほとんどの日本人にとって「神曲」を原文で読んで理解するのは困難でしょう。ただし、詩は音韻が大切なので、意味不明であっても原文を音読する意味はあるかもしれません。私は原基晶氏訳の講談社学術文庫で「神曲」を読みました。原氏は本のあとがきに「これまでの私の人生の大半はこの翻訳のために費やされてしまいました」と書かれています。原氏の訳は最新であり、日本語として全く問題ありません。ですが、「神曲」は難解です。訳された詩文を読むことはできるのですが、意味が分かりにくいのです。「神曲」を理解するには、キリスト教の神学の知識が必要です。また、神曲には古代から中世までの人々の名前が百科事典のごとく出てきます。人物が名前を直接出さずに間接的に表現されることも多いです。神曲の理解には、それらの人々の事績についての知識も必要です。ダンテは饒舌です。ですが、表現の核心に至るには沢山の玉ねぎの皮をむかねばならぬようなもどかしさを感じます。

 

 意外に良いと思ったのは、漫画で「神曲」を読むことです。

 永井豪が「ダンテ神曲」を講談社漫画文庫で出しています。この作品は電子書籍化もされています。永井豪の「神曲」は、ドレの挿絵の影響を受けた迫力ある絵が魅力の力作です。

 もう一つ、「神曲(まんがで読破)」(イースト・プレス)というのもあります。この作品の企画と漫画はバラエティ・アートワークスという会社です。こちらの神曲は、ウェルギリウスの頭に毛がなくて、まるで僧形なのが面白いです。このウェルギリウスは洋風のお地蔵さんのようにも見え、地獄篇ではあたかも「地獄で仏」のようでした。また、天国篇ではこちらの神曲の解釈の方が判りやすいように思いました。

 漫画の「神曲」はこの作品の全体像を具体的なイメージをもってつかむのに役立つと思います。ですが、原作に独自の解釈や何らかの色が付いてしまうのは仕方ありません。地獄篇と煉獄篇はイメージが具体的なので漫画化しやすいのですが、天国篇では詩文が抽象的になるので絵で表現するのが難しいと思われました。

 

 [につづく]