映画「古都」:日本文化を発信する二代目娘たち

原作:  川端康成

監督: Yuki Saito

配役: 松雪泰子(佐田千重子、中田苗子)、橋本愛(佐田舞)、成海璃子(中田結衣)、蒼れいな(千重子・回想)、蒼あんな(苗子・回想)、葉山奨之(水木真太郎)、井原剛志(佐田竜介)、奥田瑛二(佐田太吉郎) 

仏: 「神様、京の都は風水が良くて美しく、食べ物も高級で、よそより恵まれすぎて不公平です。」

神: 「仏よ、案ずるな。・・・京都人を入れておいた。」

  この小噺はパロディで、イタリアが元ネタです。

 

 京都人は結界に守られ、風水の恵みを受けています。そして伏見稲荷のパワーも。京都人は日本伝統の本物に囲まれて暮らしています。そのことは京都人の先祖の伝統を守る意志の賜物です。そして、京都人には先祖から伝統を受け継ぐ願いが託されているのです。

 

 川端康成の小説「古都」は今までにニ回映画化されました。川端康成が「古都」を書いた1961年から翌年にかけては、まだ昔の京都の街並みが多く残されていたのでしょう。この映画の冒頭で町屋が壊されてビルに変わっていくシーンが写されていました。京都駅には最新型の新幹線が走っています。時代は変わり、原作の時代の姿をそのまま映画化するのでは確かに芸がないような気がします。この映画の舞台は現代の京都とパリの二つの古都です。今回の映画は原作から時代が下って、双子の姉妹・千重子と苗子に娘の世代が加わった話です。

 

 千重子は西陣織を扱う呉服屋を切り盛りし、苗子は北山杉の造林をしています。二人とも京都の伝統産業に従事していますが、時代の変化によって経営は大変です。千重子と苗子に北山杉の模様の西陣織の帯を織ってくれた職人が廃業することになりました。高級和服の需要の問題があるのでしょう。北山杉は手をかけて枝打ちを続けることで作られる無節の美材です。林業従事者の減少も問題です。これも高級和風建築の需要の問題があるのでしょうか。

 千重子は昔ながらの町屋に住んでいますが、壊してビルに建て替えることを勧められています。快適さという点では、京の町屋は寒さや台所の使い勝手などが大変そうです。

 

 この映画では過去の回想の形で、若い千重子と苗子の八坂神社での出会いのシーンや千重子と苗子が杉林で雨に降られるシーン、一晩一緒に寝てから別れるシーンなどが彩度を抑えた解像力が高い画面で描かれています。これらのシーンは非常に美しいもので、監督の才能を感じました。

  

 若い世代の娘達は京都を出てパリに行きます。

 苗子の一人娘の結衣はパリの美術学校に留学し、美術を学んでいます。結衣は街の風景など写実的な絵を描いていましたが、先生にもっと自分を表現することを求められて壁にうち当たりました。苗子は京都から娘の元に訪れ、双子の姉との出会いと別れの話をし、励ましました。結衣は生まれ故郷の北山の風景を描くことで自分を表現することに目覚めました。

 千重子の一人娘の舞は女子大生で就活中ですが、親のコネで商事会社に就職することに反発します。そんな時に書道の師匠(女性)からパリの書道発表会への同行を誘われて、舞はパリに行きます。舞は師匠の臨書の手伝いをし、その後で日本舞踊を舞いました。そうして、自分の意で生きる手ごたえを感じます。

 そんな従妹二人はある日、教会で偶然に出会うのでした。

 

 この映画は日本の一流の伝統文化が描かれていて、とても豪華です。北山杉の絵柄の素晴らしい西陣織の帯、町屋の内部、茶道、座禅、北山杉の加工、書道、日本舞踊、日本庭園などです。書道の師匠が「和」の文字を大書してから落款印を押すのですが、そのとき警蹕(けいひつ)に似た発声をしたのが興味深かったです。

 風景では嵐山のこの世とは思えぬほどの紅葉が見事です。また、京都の風景では鴨川と高野川の合流点、すなわち下鴨神社あたりを高い所から俯瞰して撮った画面が素晴らしいです。世界に通用する素晴らしい映画だと思います。

 

 上品で落ち着いた千重子とおちゃめな苗子を一人二役で演じ分けた松雪泰子は美しくてすごく良かったです。この映画を見た後では別の女優をこの役に配することは考えられませんでした。回想時代のもろ双子の蒼れいな・あんなも若くて良かったです。あんなが姉ですが、より野生的で苗子に合っていました。橋本愛は舞と書道をこなし、成海璃子は絵を書きフランス語を話し、ご苦労様でした。これらの女優の配役には泉下の川端康成も満足するのではと思われました。