映画「ブルーに生まれついて BONE TO BE BLUE」:チェット・ベイカーはダメ男? トランぺッターの更生を支えた愛

2015年製作、イギリス・カナダ合作

監督・脚本・製作:ロバート・バドロー 

配役:イーサン・ホーク(チェット・ベイカー)、カルメン・イジョゴ(ジェーン/エレイン:二役)、ディック・ボック(カラム・キース・レニー)

 

 「ブルーに生まれついて BONE TO BE BLUE」は白人ジャズトランぺッターのチェット・ベイカーの伝記的映画です。彼の音楽が満載であり、音楽を愛する大人向けの作品だと思います。歌心を押さえた選曲が素晴らしかったです。見終わったときに余韻とやるせなさを感じて、しばらく席を立ちませんでした。映像は彩度を押さえて解像度が高く、青と茶色を多く使った渋い色使いでした。昔の回想シーンは白黒でした。

  この映画の色使いの「青」にこだわりを感じました。アメリカ西海岸の空の青、海の青。チェットのシャツとジーンズの青。フォルクスワーゲンのキャンピングカーの車体の青、スタジオの壁の青、バードランドのステージの青い照明。青といってもいろいろと違いがあるものです。映画に出てきたのは水色に近かったりくすんだ感じの青色でした。いかにもイギリス人が好みそうな地味で渋い青色。海は真っ青でなく、ときには茶色に映っていました。

 

  この映画中のキモとなる曲のシーンがYou tubeに結構出ていましたので以下にいくつか紹介します。

 

  映画は1966年にイタリアのルッカの留置場にチェットが麻薬の件でぶちこまれているところから始まります。彼がトランペットから大きな蜘蛛が這い出てくる幻覚を見ていると、ハリウッドから映画監督が面会に現れました。

 

 すると画面は1954年のニューヨークの名門ジャズクラブ・バードランドに移り変わります。そこにチェットが出てLet's Get Lostを演奏しました。このオープニングは軽快な曲です。タイトルは「ふけちゃおうぜ、二人で」っていう意味でしょうか。「老けちゃおうぜ」だと、漫才になってしまいます。

 この演奏を終えた後でチェットは黒人の女(妻となったエレイン)とイチャイチャしているのですが、そこにマイルス・デイビスが来てチェットの演奏を酷評します。このシーンは後から回想で出てきます。マイルスはまず、チェットの演奏をきれいな旋律でキャンディーみたいに甘いと言います。それから「オレは金や女のために吹くやつは信用しない。ビーチに帰れ。この店には早い。修行して出直せ。」と言いました。このストレートできつい物言いはチェットにとってショックでした。チェットは「ヘイ、マイルス。ヘイ、ディジー。西海岸にお前たちをしのぐ凄い奴がいるぞ!」と鼻息を荒くして東海岸に乗り込んだのでしたけれども・・・。

 

 イタリアの留置場から出たチェットは自分の自伝映画の収録をしていました。映画を作ることで復活を図っていたのです。過去に黒人女の売人から麻薬を勧められて初めて打つシーンが映ります。女が「ハロー、恐怖。」「ハロー、死。」と言い、チェットも唱和しました。打った後に当時の妻・エレインがやってきて、売人女を追い出しました。そのシーンを撮っていた後に、チェットはエレイン役のジェーンを口説いて連れ出しボーリングをしました。ボーリング場を出たところでチェットは暴漢に襲われました。チェットは拳銃で殴られて口が血まみれになりました。「もう、ジャズは無理だな」と吐き捨てて暴漢は去りました。麻薬の売人との代金支払いトラブルの報復を受けたのでした。顎骨骨折、前歯は全滅、頸椎損傷という重症でした。

 

 チェットが病院で目覚めると、そこにジェーンとレコードプロデューサーのディック・ボックがいました。映画製作は中止となり、関係者は去りました。ディックも13年間面倒を見たが愛想が尽きたと言い去って行きました。

 チェットは入れ歯を入れて風呂場でトランペットの練習をしますが、ひどい音しか出ず、口から血が噴き出しました。

 チェットはジェーンを車(セダン)に乗せてオクラホマ州イェールの実家に帰りました。両親は黒人娘のジェーンに対していい顔をしませんでした。実家は養豚をする農場でした。隣家が見えないだだっ広い農地にチェットは一人っ子として生まれました。父は音楽をやりバンジョーを弾いていました。チェットはトランペットとラジオを楽しみにそこで育ったのでした。

 チェットは保護観察官のリードの監視のもとで生活保護を受けました。メタドンという合法的なヘロイン依存症治療薬を飲みながら麻薬を絶ち、社会復帰に向けて努力しました。チェットはガソリンスタンドでバイトをしながら、トランペットの練習をします。そしてジェーンと愛し合ったのでした。映画では雪原で朝日を浴びながらチェットがトランペットの練習をするシーンがありました。それは短いですが、青色と音楽がとても印象的でした。

 夏草のころにチェットは両親に別れを告げて出て行きました。チェットは父にBone to be blueが入った自分のレコードをあげました。一瞬うれしそうな表情をする父。「しかしなぜ女のような声で歌う」と言いました。チェットは音楽が売れなかった父に対して「おかげでレコードは大売れだ。」と反発します。父は「おれは家族に迷惑はかけてないし、ベイカーの名に泥を塗らなかった。」と言いました。気まずい別れになってしまいました。

 実家を出たチェットはジェーンのキャンピングカーで暮らしながら、トランペットを吹きます。ジェーンは映画のオーディションに応募しますが、選外が続きます。チェットはピザ店で演奏のバイトをしますが、なかなか思うように吹けません。バンドマンから「もう少し練習してから来てくれ」と言われる始末です。チェットはディックの家を訪ねますが、もう面倒を見られないと断られます。

 

 チェットは練習を続け、なんとか演奏ができるほどに回復します。チェットが吹いていると評判になりピザ店に客が押し掛けます。その中には麻薬を勧める若い娘もいましたが、この時はその誘惑を振り切りました。そんなチェットを見てディックが支援を再開しました。チェットはレコーディングスタジオで演奏をしながら、雑用をしました。

 

 ある日、チェットはジェーンにプロポーズしました。この時、チェットはバツ2でした。そして、チェットは浜辺でジェーンの両親と会いました。この会見はチェットに対して苦いものでした。ジェーンの父はチェットの事を「世間では才能を無駄にした男と言われている」といい、「白人を信用したものか。君はヤク中だ」と言います。チェットはジェーンの父が音楽やバードを語ることに猛反発しました。(チャーリー・パーカーもヤク中でした。) チェットは駆けだして行き、海に入ります。追ってくるジェーン。夕陽に照らされて二人は海辺で抱擁してキスをします。このシーンの美しさはこの映画で特筆すべきものです。その時にOver the Rainbowが流れます。

 『虹の向こうのどこか高いところに子守歌で聴いた国がある。

 虹の向こうのどこかは空が青く、きっと叶うと信じた夢は本当のものになる・・・』

 

 その動画が次のものです。そして場面はディックのスタジオに移ります。

 チェットにチャンスが訪れました。ディックのスタジオに沢山のお偉いさんが来て演奏をすることになったのです。ジェーンは妊娠したことを告白し、チェットは結婚指輪の代わりに父が初めて買ってくれたトランペットのバルブ・リングにチェーンを通したものをネックレスとして送ります。

 スタジオにお偉いさん達が来て、チェットは緊張しながらもMy Funny Valentineを吹いて歌いました。それが次の動画です。ジェーンが聞きほれます。この演奏は好評でした。チェットは聴きに来ていたビバップの大物ディジー・ガレスピーにバードランド出演の口利きを頼みました。ディジーは「君の心が大丈夫か」が心配だと言いました。「歌はやめた方がいい」とも。

 バードランドに出演することになったチェットはジェーンに一緒にニューヨークに行くように誘いましたが、ジェーンはオーディションに出るので断りました。荒れてショーウィンドーのガラスを割るチェット。

 とうとうバードランドで演奏する日がやって来ました。復活のための千載一遇のチャンスです。マイルスとディジーも聴きに来るといいます。控室で緊張するチェットを落ち着かせようとするディック。チェットは流しに嘔吐します。緊急事態が発生します。なんと、チェットのメタドンは2日前に切れていたのです。メタドンがないと演奏は無理だというチェットにディックはなんとかメタドンを探して来ると言い出ていきました。苦悩するチェット。

 ディックがメタドンを手にして戻ってくると、チェットがヘロインを打とうとしていました。

 「やめておけ。ジェーンを失うぞ。」と警告するディック。メタドンでもいい演奏をしていたと。

 「やらないと吹けない。これが最後のチャンスだ」と泣きながら言うチェット。

 ヘロインを打つと「テンポが広く感じられ、一つ一つの音の中に入れる。」といいます。

 ディックは「君が決めろ。」といいます。

  

 開演が遅れて焦る関係者。待たされたマイルスが帰ろうとするのをディジーが制しました。そして、とうとう、チェットの演奏が始まりました。曲目はI've Never Been In Love Before。

 チェットの目はすわっており、畢生の名演でした。片隅で聴いているディックの傍らにジェーンが来ます。彼女はオーディションの日程が変わって来れるようになったのでした。歌を聴いているジェーンの目から涙があふれます。そしてジェーンはバルブ・リングのネックレスを外してチェットを渡すようにディックに頼んで去って行きました。

 チェットはヘロインの方を打っていたのでした。

 演奏が終わったとき一瞬の静寂があってから拍手が始まりました。マイルスはしぶしぶながら早くも二人目くらいに拍手を始めました。それから満場の拍手となったのでした。

 

 この映画はチェットがI've Never Been In Love Beforeを歌い終わり、次にBone to be blueを歌いかけた所でエンドロールに変わります。字幕によれば、チェットはその後もヘロインをやめることができず、その後ヨーロッパに渡り、1988年にアムステルダムで亡くなったそうです。

 

 イーサン・ホークは渾身の演技で素晴らしかったです。彼の歌もいい雰囲気を出していましたが、歌はやはりチェット・ベイカーのオリジナルの方がいいと思います。それはチェットの声の波動(声相)がなんともいえない魅力を醸し出しているからです。