アニメ「この世界の片隅に」:かみにえがき、たまにきざむ

原作:こうの史代

監督・脚本:片淵須直

声: のん(北條すず)、細谷佳正(北條周作)、尾身美詞(黒村径子)、稲葉菜月(黒村晴美)

音楽:コトリンゴ

このアニメを見終わって、色々な思いが交錯しています。

百聞は一見に如かず。

 

雪舟が小坊主のころに和尚さんに廊下の柱に縛られました。

いたずらをした罰でした。

しばらくして、和尚さんが様子をうかがうと、

泣き疲れて眠っていた雪舟の足元に、

大きなネズミがいて足をかじろうとしていました。

和尚さんが駆け寄ってみると、それは

雪舟がたまった涙で床板に足で描いた絵でした。

そんな話を思い出しました。

もし、雪舟が今の世に生まれ変わっていたならば、

涙で絵の具を溶かして

このアニメの絵を描いたのではないか。

そんな風に思いました。

 

また、声と音楽も

この作品に命を吹き込んでいます。

言葉は広島弁で、昔の丁寧な言葉遣いが印象的でした。

 

神の御子は今宵しも

ベツレヘムに生まれたもう

いざや友よもろともに

いそぎゆきて拝まずや

いそぎゆきて拝まずや

 

冒頭に讃美歌のメロディーが流れます。

 

戦前から戦中・戦後の話です。

主人公のすずは、絵を描くのが好きで、おっとりした性格です。

広島で家業の海苔作りを手伝っていました。

すずは十八で呉の海軍に勤める周作に嫁ぎました。

周作の家は高台にあり、軍港の軍艦がよく見えました。

すずは軍需工場に勤める義父と、足がわるい義母の世話を良くしました。

そこに周作の姉の径子が娘を連れて戻ってきました。

義姉は病弱だった夫と死別し、その息子は下関の実家に引き取られたのです。

すずは、嫁として家事を一生懸命にこなしました。

周作との仲はよかったのですが、子どもができませんでした。

義姉とのあつれきがありました。

すずの楽しみはノートに鉛筆で絵を描くことでした。

 

太平洋戦争が始まり、物資が配給となりました。

すずは着物を直してモンペを作りました。

配給が減ると生活が苦しくなりました。

野草を摘んだり、芋を入れて雑炊を作ったりして食事を工夫しました。

戦争が激しさを増して、すずの兄は戦死しました。

呉が空襲されるようになりました。

空襲警報が出るたびに防空壕に逃げる毎日。

呉の街は爆撃を受けて広く焼けました。

その日、すずは幼い姪の晴美をつれて出かけていました。

二人は、時限式の爆弾の爆発に巻き込まれました。

晴美は爆死。

すずはつないでいた右手の肘の先をふっとばされてしまいました。

今まで絵をかいてきた右手を失いました。

義姉はすずのせいで娘が死んだとつらく当たりました。

 

そして、広島に原爆が落ちました。

日本は敗け、すずの一家はラジオで玉音放送を聞きました。

すずは戦争の暴力に対して怒り、敗戦に悲しみました。

広島に行ってみると、

すずの両親は亡くなっていて、妹は被曝して体調を崩していました。

焼野原になった広島で、

すずは海軍の解散作業が終わった周作と再会しました。

そして、晴美と同じくらいの年の孤児を保護し、

家に連れ帰り家族の一員に迎えたのでした。

 

 

当時の日本人は皆が戦争に巻き込まれていました。

国家と国民との一体感があった時代でした。

それぞれが皆、物語を持っていたでしょう。

 

私の母は戦時中は十代で、

東京の床屋で住み込みで働いてました。

勤労奉仕で、

集団疎開する多くの子供たちの頭をバリカンで刈ったそうです。

学徒出陣する大学生達の髪を刈ったときには、

涙が出たといいます。

それから東京大空襲で焼け出されて、

母は郷里に帰りました。

 

 

ある時、私は広島に行き、

原爆ドームを訪れました。

おそらく世界で一番美しい廃墟でした。

そして平和記念資料館に行き、

原爆で殺された一人ひとりの顔写真を見ました、

ある小学校の若い女の先生は、

瀕死の状態で

死にゆくことを詫びる手紙を書き残していました。

 

ヒロシマと戦争を描いた漫画では、

「はだしのゲン」が有名です。

軍国少年の主人公は原爆で家族を殺され、

戦争に対してストレートに怒り、悲しみました。

「この世界の片隅に」では、

市井の主婦の目を通して戦争が描かれました。

 

 

世界貿易センタービルがまだあった時ですが、

私はアメリカに行き、

ニューヨークの摩天楼に登ったり、

ナイアガラの雄大な風水を見たりしました。

そして、日本はこの国と戦争をすべきではなかったと思いました。

戦前の東京に丸ビルがあったときに、

 アメリカはエンパイアステートビルを完成させていました。

 

日本はいじめられた米国に対してついにキレて、

こぶしを振り上げて顔面にパンチを入れました。

相手は鼻血が出て怒り、日本に反撃しました。

日本は絞め殺される直前に降参しました。

その後に、

アメリカと日本が同盟を結ぶことを誰が予想していたでしょうか。

 

戦後の日本では、

憲兵も特高警察も消えました。

軍事オタクはいますが、軍国少年はいません。

戦後71年が過ぎて、

昭和が遠くなりました。

きっと今はすごくいい時代なのでしょう。

 

 

このアニメで白鷺がたびたび出てきました。

それは、自由の象徴でしょうか。

それとも、ヤマトタケルノ命が亡くなって

白い鳥になって飛び去ったような、

死者の霊魂の乗り物でしょうか。

 靖国神社の境内にいる、まっ白い鳩を思い出しました。

 

 

この世界の片隅を照らすともし火は、

いつか吹き消されるかもしれません。

しかし、ともし火は他に燃え移り、

新たなともし火となって照り続けるのでしょう。