ドラマ「アシガール」が面白い

 NHKの土曜ドラマで「アシガール」という娯楽時代劇を見たら凄く面白かったのです。なぜ面白いのか、その理由を考えてみました。

 

 冒頭は戦国時代の合戦のシーンです。味方の陣中でジャンプして準備運動をしている変な足軽がいます。斥候に出た別の足軽が敵の大軍が霧に紛れて接近してくるのを察知します。すると敵軍は鉄砲を打ちかけて寄せて来ました。銃撃を受けてひるむ味方。この時、自陣から若武者が単騎で敵陣に突っ込んでいきます。その後を先ほどジャンプしていた足軽が追いかけて走り出しました。

 

 この足軽が現代からタイムスリップして戦国時代に行ってしまった女子高生の主人公であり、追いかけていった若武者が彼女が戦国時代で一目惚れしてしまった「若君」という設定です。この女子高生は足が速いのだけが取柄というボーイッシュな女の子。その子は戦国の世で愛する人を守るために男のふりをして足軽となったというのです。なんともぶっ飛んだ設定であります。「アシガール」は「足軽」であり、かつ「足(が速い)ガール」なのでしょう。言葉や服装が違っても怪しまれないことや、女性であることがばれないことは不思議ですが、そこは突っ込まないのがお約束でしょう。

 

 主人公の速川唯を演じるのは黒島結菜。「速くてかわゆい」と、語呂が良い名前です。「若君」の羽木九八郎忠清を演じるのは健太郎です。この二十歳のフレッシュなコンビは映画「サクラダリセット」でも共演していました。黒島結菜はサクラダリセットでは女子高生の超能力者を演じていて、おとなしくて従順な性格の役でした。今回の役は活発で向こう見ずでちょっとおバカキャラなのが新鮮で面白いです。黒島結菜はこのドラマでとにかく良く走っています。この人が胴鎧を着て一生懸命に走っているのを見ると気持ちがスカッとします。

 

【原作漫画が高レベル】

 ドラマが気に入ったので、森本梢子の原作漫画も読んでしまいました。この漫画は時代考証がしっかりしています。そして人物の表現が巧みでせりふが的確で面白かったです。また、主人公が嫉妬深かったりして人間臭かったです。まんがはドラマよりギャグ寄りに振っている傾向がありますが、そのギャグに照れ隠しの味わいを感じます。若君の武家が滅亡する歴史を知って愕然とし、好きな人を守りたいと決心する主人公の愛情と勇気に何よりも好感が持てました。

 

【NHKの本気】

 脚本や演出に細かい相違はありますが、このドラマが漫画の雰囲気をかなり忠実に再現していることに感心しました。NHKがこのドラマ製作にかなり本気を出して臨んだように思えます。合戦のシーンは大河ドラマを越えるかと思える迫真ものですし、戦国時代の村人の暮らしも丁寧に描写されています。

 少女漫画独特の絵草子のような「間」を隙間なく埋めている点で実写は見どころがあります。漫画ではデフォルメされていて実写困難なシーンはうまく処理されています。漫画になかった設定やシーンも現実との矛盾を解決するために概ねうまくいっているようです。

 また、音楽や効果音の使い方がセンス良くて感心しました。時代劇に洋楽がかかるのですが、不思議と違和感なくマッチしています。「If you ask me」で始まるバラードは単体で聴きたいと思う素敵な曲です。

 

【キャストの妙】

 配役もかなりいい線いっているのではないでしょうか。

 

 まず、主役の二人が魅力的で好ましいです。

 ヒロインの黒島結菜は、漆黒のおかっぱ頭が原作のイメージどおりです。可愛い顔、細い手足。一途な態度が清々しいです。

 若君には戦国武将の力強さと貴公子の両方の要素が必要です。原作を見た人が若君役に対してそれぞれ自分なりのイケメン像を持っているので人選が難しかったことでしょう。健太郎は颯爽と乗馬して殺陣も良かったので、私はオーケーだと思いました。その後の展開でのふるまいや表情、セリフもすごくいいです。健太郎は、しり上がりに役に適合してきたように思えます。

 

 次に、脇役達も原作のイメージを良く再現していて、彼等の演技もまた見どころです。

 「兄上」羽木成之役の松下優也は妖しい魅力を放ち、悪を演じることで物語に深みを与えています。 

 如古坊役の本田大輔は表情が豊かで、悪役ながら良い味を出しています。

 石黒健の演じる羽木の殿(忠高)はやたらに扇子を活用していて、いい感じです。

 吉乃役のともさかりえは毅然としていて名演だと思います。息子が合戦から戻らなかった時に息子の着物を握りしめた無言の演技には深い味わいがありました。この人に「たわけ!」と叱られてみたいもの。

 天野信茂役のイッセー尾形はコミカルな演技をし、若君に注ぐ愛情の深さもよく表現しています。イッセー尾形はスコセッシ監督の映画「沈黙」で思慮深く狡猾でもある老奉行を好演して高い評価を得ました。

 天野信近役の飯田基祐は堅物の武人を演じていてかっこいいです。コミカルな一面も。

 天野小平太役の金田哲(はんにゃ)は武士の身のこなしが板につき、イケメンで表情がよくて素晴らしいと思います。剣術の稽古のシーンが迫真的です。

 歴史の木村先生と部将の木村政秀を一人二役で演じている正名僕蔵の演技力は正直すごいと思います。二つの役を同一人物が演じているとは当初気がつきませんでした。

 松丸阿湖役の川栄李奈も役と調和しているように思います。唯の想像の中で阿湖が女子高生の扮装をしていて男子にモテモテなのが面白いです。

 唯の父役の古舘寛治と母役の中島ひろ子は原作よりも個性を与えられ、味がある家族を演じていました。

 感心したのは唯の弟・尊(タケル)役の下田翔大です。若いのに良い演技をします。「ジャジャーン!」が印象的。

 

 他にも枚挙がありませんが、脇役みんなが役柄にばっちりはまって好演していて見事なものです。

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 戦国時代は遠いようで、現代人に大きく影響を及ぼしています。人と人との間で、戦国時代と現代とで共通する価値観、同様に尊重される徳目とは何なのでしょうか? そこを手がかりとして戦国時代の人と現代人がつながっていくような気がします。

 それは、愛情と勇気かも、と思います。

 そのあたりがしっかり描けているところがこの作品が共感を生む理由なのでしょう。