映画「覆面系ノイズ」:思いを届ける歌声

 原作漫画:福山リョウコ 

 昨年から「セトウツミ」と「チア☆ダン」を見てきて、今年は中条あやみが世に出てくると予想していたのですが、その結果が「覆面系ノイズ」という音楽系の映画でした。この主演作品で彼女は叫んで、泣いて、歌って過去の自分の限界を越えました。「覆面系ノイズ」は中条あやみの出世作でしょう。

 三木康一郎監督には「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」が良かったので期待していました。「植物図鑑」は柔らかい光をうまく使って美しい画面を作っていました。本作品でも海岸の美しい映像がありました。

 今回の製作にあたって監督は力業も使いました。驚異の九頭身でビジュアル的には申し分ないが、歌には自信がなかった中条あやみを主役に抜てきし、ボイストレーニングで本当に歌えるように改造してしまいました。

 実写化において常に問題になるのは、原作のぶっ飛んだ設定です。この作品では仮想と現実のバランスを取りながら、原作のとんがったところを丸めて万人が見やすいように無難にまとめた感があります。映画版の劇中歌「カナリヤ」はアニメ版よりもポップになっている感じです。

 

 色々と映画を見てきて、お約束だと思うことがあります。たとえば、高校生が出る映画では、二十歳を過ぎた人が高校生を演じている、主人公の教室の席は窓側、必ず校舎の屋上に行くシーンがある、下校時間が早い、泣きのシーンで雨が降る、などです。鎌倉が舞台の映画では、必ず江ノ電と七里ヶ浜から見た江の島が映ります。小学生が出る映画では5年生の設定が多いです。

 この映画でも、以上のお約束を守っていて、その点では冒険をしていません。

 

 冒険と思えるシーンや設定もあります。校舎の屋上は映画では秘密の隠れ家のように描かれることが多いです。しかし、この作品では屋上からヒロインが大声で歌い、生徒達が聴き入って拍手喝采となるシーンがあります。ここは、なんだかハリウッド映画を見ているようで、気恥ずかしい感じがしました。

 また、ヒロイン・ニノの初恋の人・モモが高校生のくせに音楽のヒットメーカーであり、歌のオーディションの審査員をしていたのも違和感がありました。実にスーパー高校生です。これらはおそらく原作由来のシーンや設定なのではと想像します。

 

 感心したのは、マスクをした小学生のニノの目が高校生のニノの目に切り替わるシーンでした。この切り替わりが実に自然であり、ニノが小学生の時に交わした約束と夢を高校生になっても追い続けるのが納得できたのでした。

 

 さて、この映画のテーマは歌で思いを伝えることだと思います。歌詞を作り作曲することでニノへの思いを伝えようとするユズ。歌うことで自分の思いをモモに届けようとするニノ。そしてニノの思いを拒絶するモモ。そこに一種の三角関係が生じていました。私はモモがどうしてニノの思いを拒絶したのか、それなのにニノにキスをしたり、自分の曲だけ歌ってほしいと言ったのかわかりませんでした。

 

 モモとユズとの二者択一を迫られたニノは結局ユズの音楽を選びました。ステージは最初で最後のニノハリ(バンド名)の公演でした。聴衆に向かって恋愛感情を歌うことで歌手やグループに人気が出るわけですが、バンドのメンバーの中で恋愛が成立してしまうと聴衆に対する世界が閉じてしまいます。恋愛が成就した時点でニノは歌う意味を失ったように思いました。映画は感動的な歌「close to me」で幕切れとなりますが、そこが初めてで、頂点で、終わりと思えたのでした。